"Remixing Values" - about 銀天版店 -

作者本人の哲学を垣間見るのがアートの醍醐味の一つだ。表現者の多くは作品にこだわりをもちつつも自己発信は控えめで、積極的に世界観を語る人は少ない。金とか名誉とかではなく、ゴールは表現そのものだから、披露を終えるとその先に欲しいものがないからかもしれない。コザ銀天街から発生したハンドプリントワークショップ(手刷版屋) “銀天版店” の二人もまた、柔らかく微笑みながら語る男たちだった。

現場はもちろん銀天街の一角、たいら洋品店(※店舗時代の看板はそのままに現在は実質ショップではなくスタジオとして使用)。「銀天版店」命名の由来となる古びたアーケード街に佇むレトロな空間だ。DIYで改装した室内は気温10℃をマークした極寒(←沖縄ではね)の日でも心なしか暖かく、その空間に興奮して見回してる隙に、タッキー氏(瀧口氏/銀天版店の一人)がそっとココアをテーブルに差し出してくれていた。国道に接しているとはいえ古城と化した銀天街に、入口のシャッターが半分下ろされたたいら洋品店。「隠れ家風の」とかいう流行り言葉をギャフンと言わせる本物の隠れ家はこの世の時空を確実に少しだけ歪めている。


室内には彼らの持ち味であるシルクスクリーンプリントでカスタムされたインテリアや衣類などがバランスよく雑に散りばめられているが、うるさくはない。「クローゼットからテキトーに出して着てきただけだよ」って言ってるオシャレな人っているけどアレと同じだ。


銀天版店の個展が開催間近だが、彼らとのコラボをギャラリーオーナーの職権乱用でお願いさせていただいた。銀天版店 × DENPAによるアパレル & アート作品 & etc…。その中でDENPAの既成Tシャツに銀天版店がプリントを加えるという企画があるのだが、その土台となるシャツを10枚ほど預けるとタッキー氏が一枚取り出し「今パッとやっちゃいますよ」と。最高。


作業を見学中、遅れてオム氏(金田氏/銀天版店の一人)が到着。タッキー氏のプリントをオム氏が覗きながら「俺もいっちゃっていい?」とタッキー氏と交代、幾重にも重なった版の入った箱をガザゴソとディグってはピンときたネタをどんどん刷っていく。


「バックも入れたいよね」とか「サイドにも」と言った具合にその場のノリでDENPAのシャツをリミックスしていく様子は臨機応変に音を融合させるDJのようだ。ちなみにオム氏はデザイナーやVJ、タッキー氏は内装業やプリント業の分野で経験を積み二人の技術を持ち寄って銀天版店が成り立っている。


一般的なスクリーンのプリントの技法とは違い、枠に張らないペラペラの版でヘラを用いてプリントする。文字どおり枠にとらわれないスタイルだが「これなら曲面にもプリントできるんです」と。なるほど。滲みや歪みもでるが、こちとらアートなのでそれが良さ。


不思議な形をしたプランターは最上段の水がスムーズに底へと行き届くデザインになっている。「都市の中で田舎の良さも取り入れたくて。これだと狭いスペースしかなくても自給自足できそうじゃないですか」。


主な表現媒体は古着。スクリーンプリントの強みに反して作品は一点物ばかりだ。「普通の人が普通にプリント技術をもっていて(みんなが車の運転できるみたいに)、生活の一部として手持ちの服に自分のデザインをプリントするような遊びが広まると、簡単に服を捨てるってこともなくなると思うんです」。そうなれば無駄買いも確かに減る。


こちらは廃材を利用して再生させたフレームやオブジェ。役目を果たし利用価値を一度は失った素材を再生し新たな価値を吹き込んでいる。新品は技術やお金でいくらでも作ることができるが、古くから歴史を刻んだ素材は時の経過を待つことでしか手に入れられない資源のようなものだ。この世のどれだけの人が「古い」に価値を認めているのだろう。


最後に一言を求めると「誰か古着ください」とのこと(笑) 今後の展望としては海外進出。「海外の路上とか野外パーティーとか展示会もやってみたい。言葉が通じなくてもシルクスクリーンがコミュニケーションの手段になってくれると思います」。


「LIFE STYLE DESIGN(衣食住のクリエイション)」そして「Rebirth(再生)」というのが銀天版店のスローガンだ。単に「田舎にいく」でなく「都市に田舎の生活を持ち込んで両方の良さを享受する」、「古くなった服を買い替える」でなく「買わずにアレンジしてまた楽しむ」。既存のライフスタイルを一部踏まえながら独自のアイデアで価値観をリミックスし生活をより豊かにする。決して周りに押し付けず、自分たちに馴染むし楽しいから勝手にそうしてるとのことだが、筆者のようにペラペラと拡める輩に見つかると素晴らしい哲学はどんどん伝播する。それがゴーストタウンの隠れ家でやっていようが、入口のシャッターが半分下ろされていようが、粋なアートは人を呼び寄せ、持ち出されるものだ。

(Interview/Photography/Words by Stock Room Gallery KOZA)


銀天版店 個展

“銀天版展”

@Stock Room Gallery KOZA(沖縄市中央2-7-40)

2/24(土) - 3/4(日) 11:00 - 20:00 [※火/水は休廊]

※開催期間中、ご持参の衣類などに展示の版を用いたカスタムプリントをその場でオーダー、お受取りいただけます。

銀天版店

Instagram: @gintenhanten

Facebook: @gintenhanten

Stock Room Gallery KOZA

アートギャラリーStock Room Gallery KOZAのホームページです。 DENPAとMORIKA、SAKU(那覇店)によるアーティスト運営によるギャラリーです。